まいにちショウアクのすけ

平日の日課として、書いて、書いて、書いて!

マキロンと一緒。

「すみません!広尾のこの住所までお願いします」

 

恵比寿駅前でタクシーを拾う。

前の予定が長引き、恵比寿の駅に着いたのが16時57分。

高校時代の旧友、北条の結婚式二次会は17時から。

つまり僕は気が気でないくらい、急いでいたのである。

北条マサガス、通称マチャが結婚した。彼は僕の高校時代の友の1人で、

今年で付き合いは10年になる。

 

恩人とも言える。彼は薬剤師で、

今年の8月、僕は体を壊し薬の副作用で七転八倒していたとき、

彼のおかげで命拾いした。

 

彼の的確な指示のおかげで、敗血症になり命を落とさずに済んだ。

広尾、17時4分。会場は遊歩道の先にあり、少し手前でタクシーを降りた。

顔を出し始めた冬木立が、広尾の華やかな街を丁寧に滑っていた。

走った。走りながら思った。

マチャが結婚するなんてこと考えたことなかったな、と思った。

彼と出会ったのは高校入学式だった。天然パーマで、

眠そうな目、がっちりとした大きな図体。新入学のクラスで目立っていた。

しかし授業が始まりすぐ分かったのだが、

彼は非常に優れた頭脳の持ち主だった。頭が良く、成績は常に上位だった。

 

彼もバスケット部に所属していた。彼のプレイスタイルは一言で言うと

「アグレッシブ」だった。

 

今でも印象的なのは、彼のライン際のプレイだ。

彼は必ず相手がファンブル(取り損ねた)したボールを、

一心不乱に体ごと飛び込み、取りに行く。取れないと分かっていても、

必ず、飛び込んだ。

 

大抵、観客席や壁またはネットにぶつかり、大きな音とともに、

転げ落ちる。そして「あいてててぇ」と少し戯けた表情で、

傷だらけで、コートに戻ってくる。

 

「まちゃ、あぶねぇよ、馬鹿だなぁ」

 

コートに戻ってくる彼にいつも言った。

そう、馬鹿だったのだ。

僕も、マチャも。

彼とはバスケットの思い出よりそれ以外の事の方が多い。

女子校に自転車で突入し卑猥な言葉を連呼したこと。

怪しいビデオを扱っている、何故かインターホンを押さないと

入れないビデオ店「キリン堂」への購入旅行。

 

高校の周りに何もなく、わざわざ自転車で30分かけて、

隣町まで牛丼を食べに行ったこと。

 

落ち込む部長を元気つけるために、内緒で用意し、

校庭の裏で薪を起こし、焼き芋パーティーをしたこと。

 

オーストリアからの全く日本に興味のない留学生クリスとの珍道中。

アダルトビデオの裏の説明文を誰が一番叙情的に読めるかの朗読対決。

語り尽くせない。

僕たちはどこに行くにもマチャの自転車に二人乗りして向かった、

どこにでも行けると思っていた。青春だった。

 

そして加えて僕たちは大抵の高校生がそうであるように、

童貞をこじらせ、イケメンを憎んでいた。

 

「ちくしょー、俺一生懸命勉強して、

    いい大学入って、いい会社入って、綺麗な嫁さんもらってやるんだからな!」

 

「おう!マチャよく言った!そうだな!俺もそうするよ!」

 

ママチャリに二人乗りしながら、冬の寒さ厳しい熊谷の街で、

僕たちは誓った、いや、そう願った。

マチャが、結婚をする。

会場に着くと会は始まっていて少し緊張した面持ちで

マチャがみんなに挨拶をしている。挨拶が終わる。

会は非常に和やかで、いいものだった。

 

「まちゃ、おめでとう。」

 

「お、お、ウラちゃんありがとう。元気そうでよかった」

 

「うん、まだまあまあかな。まちゃ、よかったなぁ。

    宣言通りじゃないか。いい嫁さんだ。」

 

「次はウラちゃんだよ」

 

「そうだなぁ〜。頑張らなきゃだなぁ」

 

彼はあの猪突猛進、ボールに向かっていた時の彼と全く変わっていなかった。安心した。

クイズ大会になった。景品をかけて新郎新婦にまつわるクイズに答えるというものだ。

新婦のマキさんにまつわるクイズで、マキさんの小学生の時のあだ名は?

という問題が出た。

 

答えはマキロンだった。

 

いいなぁと思った。安心をした。

これからも、マチャは続けられる。

あのコートから飛び出して、取れるか分からないような

ボールにも食らいつくプレイを、人生においても、続けられる。

 

どんなに傷だらけになってもマキロンがあるなら大丈夫だ。

すぐ治るじゃないか。

そしたら、僕も言いたいと思う。

 

「マチャあぶねぇよ、馬鹿だなぁ〜、でもカッコイイんだよな、それ」

 

と。