まいにちショウアクのすけ

平日の日課として、書いて、書いて、書いて!

汽車を届ける

「すみません、今日は早めに帰ります。次があるんです」

 

「はぁ珍しい!まだハンバーグ、全部食べてないですよ?珍しいですね、浦川さん。」

 

「あ、はい…残してごめんなさい。」

 

「いえいえ!…なにか、その、大事な用事なのですか?」

 

「あ、何かあったわけではありません。今日は会社関係の人のご自宅でたこ焼きパーテ

ィをする予定なんです。そこに『ソウスケ』くんという、これまた会社の方の息子さん

がいらっしゃるので、会いに行こうと思っているのです。」

 

「なるほど。いいですね、小さなお子さんですか?いいですねぇ。

今日から12月ですものね。クリスマスプレゼント、買って行かれるのですか?」

 

あぁそうか、今年ももう残すところ一ヶ月か、と思った。

 

店を出て、周りを見回すと、赤と緑、クリスマス装飾があたりにちらほらと見ることが

できる。(初めて会う記念でもある。何か、プレゼント買っていってあげよう。)

 

通りに面したおもちゃ屋に入る。

店内にはオルゴール調のジングルベルが流れていた。

オルゴールかき鳴らすジングルベルのなか、プレゼントを買い、少し足早に、パーティ

会場がある阿佐ヶ谷に向かった。

 

阿佐ヶ谷の駅から会場へと歩く途中、釣り堀があった。

それをみやると、水面に西日がキラリキラリと反射して眩しかった。

よく見ると、釣り堀にはカップルがいた。

彼女が釣り上げた魚を網で彼がすくい上げているところだった。クリスマスが、近づく

と、至るところカップル。

 

釣り堀にもカップルか、と思った。

すくい上げる彼のへっぴり腰に少し、僕はニヤリして会場へ、また急いだ。

僕がついたとき、ソウスケ君はまだ来ていなかったが、少しして、お父さんの由良さん

に抱っこされながら、彼がきた。

 

とても小さく、全てが丸でできていた。

パタゴニアのフリース、リーのジーンズプリントがされた服を着ていた。とてもおしゃ

れであり、そして暖かそうな格好をしていた。

 

彼の格好のそのデザインと暖かさが由良さんと奥さんの

愛情の誠実さと深さを物語っているような気がした。

 

「ソウスケ、これどうぞ。プレゼントです」

 

「あんさー、ちょーこれー、開けー」

 

彼は3歳で少し喋れた。

 

渡したプレゼントの箱をすぐ僕にまた渡して、開けてほしいと願ってきた。

 

僕はプレゼント包装を開けるのが下手である。

いつものようにビリビリ破き、箱も粉砕して、

彼へのプレゼント「機関車トーマス」を渡してあげた。

 

「おー!こーさーえんしゃー?」

 

「そうそう、電車、厳密には石炭で走るから、汽車かな。」

 

「おー!」

 

彼は電車を持って、地面に起き、手でそれを走らせた。

そしてカメラアングルをローにするように、地面にべったり顔を付け、

目の前でカーブさせたり、スピンさせたり、していた。

子供のアングルというものがあるのだなと思った。

 

彼もいずれ年頃になる。そして大学生になり、旅に出たりするかもしれない。

アフリカやインドの汽車に乗り、手には沢木耕太郎さんの本なんか持って。

旅で出会う食べ物、文化、女性、それらが彼を成長させていき、

彼のその甘く輝くクリームパンのような手も、いずれはさくっりしょっぱい

かっぱえびせんのようになり、年をとっていくかもしれない。

 

僕にもこんな時があった。

しかし果たして僕は、彼の今の成長スピードには勝てないにしろ、

この一年で何か成長できたのであろうか…

 

「ねー、あんさー、こーいっしょー!」

 

「お、俺も汽車で遊んでいいのかい?ありがとうございます。」

 

2人で沢山遊んだ。夜も更けて、ソウスケは先に眠くなり帰って行った。

僕もお酒をかなり飲み、気持ちよくなり、帰った。

 

帰り道1人になってから、今年あった出来事を心の中で、

なるべく丁寧に撫でていく。

 

何があったか、どんなことだったかを指で撫でながら、送っていく。

オルゴールが音を奏でるのように思い出をはじく。

 

撫でながら、僕は、酒で気持ちよくなって歌う。

 

ジングルベール、ジングルベール、

クリスマス〜♪

 

と。

 

ソウスケさん、また会いましょう。