まいにちショウアクのすけ

平日の日課として、書いて、書いて、書いて!

読書で人生。

今週のお題「読書の夏」

 

夏休みの課題図書というものがある。小学生のときである。

課題図書とされる本を読んで、読書感想文を提出するという

夏休み中に消化しなくてはならない宿題のひとつである。

 

当時の僕は、読書というものがあまり、いやまったく好きではなかった。

 

じっとしていられなかった。

じっと、本とにらめっこ。

当時のぼくにとってそれは、国語の授業の延長線上でしかなかった。

そんなことよりも、他にやらなきゃいけないことがたくさんあった。

 

近所の材木工場のオカクズの山に、まだ日が昇る前、自転車で向かい、

虫取りもしなくてはならないし、お盆のお小遣いで買ってもらったゲームを

やらなくてはならないし、アイスも食べないといけないし、児童館でみんなと

待ち合わせして、近くのどんぐり公園に、サッカーをしに行かなくてはならなかった。

プールもいなかくてはならない、自転車で商店街をだれが一番早く渡りきれるかの勝負

もしなくてはならない、すいかも食べないといけない、

街のお祭りで神輿も担がなくてはならない…!!

 

家でじっと本とにらめっこしている時間なんて、ぼくにはなかったのである。

 

とはいっても、夏休みの終わりに、両親にケツを叩かれ、宿題をしていく流れで

この読書感想文というものと、向き合わなくてはならない時が来る。

 

(長い、なんて長い文章なんだ、こんな本、読んでいたら、

夏休みが空けてしまう、やばい、どうしよ、もう、どうしよ…)

 

読んでいても頭に入らない。タイムリミットを意識するせいで、焦る。

そのせいで、まったくもって頭にストーリーが入ってこない。

読み慣れていないせいで、同じ文を何度も読んでしまう。

登場人物の名前が覚えられない。漢字でつまづく。ページをめくる行為でさえ

慣れておらず、全くぜんぜん進まない。

 

そんなこんなで、ギブアップ。

その本のあとがきだけ読んで、なんとなく選択した文の抜粋で、

なんとなく感想文を書いて、なんとなく、しれっと宿題を出す夏休みを、

6年間続けていた。

 

「読書なんてするやつの気がしれないや」

 

夏休みが終わった9月頭に、毎年そう思って、課題図書のその本をゴミ箱に

投げ入れた。

 

 

高校生になった。当時ぼくの通った高校には、ぼくの所属する普通科以外に

理数科というコースがあり、普通科と理数科の間には、越えられない、万里の道とも

感じる偏差値の差があった。

(ぼくはその低いほうの普通科の試験でさえ、本当にギリギリで受かっていた)

 

その理数科にいるある女の子に恋をした。その子は読書好きで、

三島由紀夫が大好きだった。ぼくはその子となんとか近づきたく、

三島由紀夫なんてまったく興味がないのに、その子に本を借りて、

一生懸命読むということを続けていた。

 

仮面の告白」と「金閣寺」を夏休み前に借りた。

夏休み中に読むからといって、2冊借りたのである。一生懸命読んだ。

わからない言葉は辞書で引き、借りた本を丁寧に丁寧に読んだ。

もともとガサツな性格のぼくだから、ページを折り曲げてしまうんじゃないかという

思いから、本当に1ページ1ページを、丁寧に指でそっとつまんで読んでいった。

 

夏休みが空けて、彼女に本を返そうと意気揚々と通学していった。

高校には、最寄りの駅から15分程度歩いて通っていた。

 

空が青く、田舎道の両端にある田園は青々と茂り、導火線の緑色に似ていた。

爆発寸前の生命力のようなものを感じた、清々しかった。

 

高校の校門まで差し掛かると、彼女がいた。

親しげに、普通科の男としゃべっていた。

 

手をつないでいた。

 

この夏休みのインターバルの間に、その男はゴールを決めていたのである。

ぼくがチマチマ、ウォーミングアップしている間に、彼は、フィニッシュを

決めていた。

 

彼女はみたこともないような楽しそうな顔で、その男と話しながら、

校門をくぐっていった。その男は、三島由紀夫の美学とは程遠いような

金髪の、今時の、チャラチャラとしたバンドマンだった。

 

ぐっと夏休み明けの校門をくぐるのが、辛く感じた。

 

もう告白なんてどうでもいいし、なんなら俺も、

この高校に火でもつけてやろうかと、思いながら、重たい気持ちで

校門を僕はくぐった。

 

 

今この文章を、病院近くのホテルで書いている。

今年で30歳になった僕は、小学生の頃には考えられないような読書好きに

なってしまった。唯一の楽しみと言っていいほど読書が好きだ。

 

この病院に来るとき、かならず数冊の本をもって出かける。

 

また、高校のときには想像もつかなかったけど、幸せな恋をして、

幸せな結婚もした。

 

そして、その次の幸せである「子供の誕生」を待っている。落ち着かない心を

なんとか活字で、読書で整えようとしている。

 

本を閉じて、この文章を書いている。

 

「僕」という人間のストーリーを、一枚一枚丁寧にめくりながら、

新しく綴られるドラマチックな続きを想像している。

 

何が起こるかは正直わからない。でも、読み続けることが大切だと思う。

 

だから、僕は、次の文章、次の一文字にわくわくしながら、

この先も、人生の読書を続けたいと、思う。

 

本当に、そう思う。