まいにちショウアクのすけ

平日の日課として、書いて、書いて、書いて!

僕に起きた奇妙な体験 その1 「ひょっこりおばさん」

まえがき

幽霊を見たというような話、怪談話をすることを生業にする人、あるいはそれを得意とする人がいる。その中で、どの程度の話が嘘偽りのない真実を語る話であるかは分からないが、そういう現象、話、人々が、「本当に」いるんではないかと僕は考えている。

なぜなら僕自身、32年の人生の中で、何度かそんな類の体験をしてきたからだ。

そんなに数はない。
詳細は思い出せない些細なものから、その場で面食らい、恐怖で体が小刻みに震えるようなもの、度合いは様々である。

なるべく脚色なく語って行きたいと思う。
真正面から、なるべくはっきりと、あったことを描ければと思う。

ひょっこりおばさん

当時25歳くらいであった。当時は大手広告制作会社に勤めていた。
深夜まで働くことが常で、その日もいつも通り終電で帰宅した。

自宅のある池袋駅に着き、家路を急いでいた。確か2月ごろで、とても寒く、なるべく体を温めるためもあり早歩きで、姿勢を正して前を向き歩いていた。

池袋の駅前は歓楽街である。しかし、僕の自宅があった北口付近は、少し歩くと戸建住宅がちらほら見えてくる。どの家も裕福そうで、比較的しっかりした石塀に囲まれた古風な住宅だ。地主さんが住んでいたのかもしれない。

歩いていると、30メートルくらいさきの石垣から、おばさんが顔だけ出してこちらを見ている。笑顔で、髪型はボリュームのあるパーマ、細かいディテールまで覚えていないが、どこにでもいる50代くらいのおばさんだった。

なんだろう?とは思ったが、不思議には思わなかった。なぜなら僕の数メートル後ろに、ベビーカーを押して、楽しそうに会話する夫婦がいて、彼らに投げかけられる笑顔だと解釈したからだ。

あまり気にせず歩いていると、顔が石塀の影に引っ込む。と思うとまた顔がでる。また引っ込む。

何度かその繰り返しをしていた。顔を出すときはスピードがついていた。ベビーカーの赤ちゃんに対するアヤシなのかなと思った。この夫婦どちらかの実家で、久しぶりの子と孫の帰省に喜んでふざけているのかなと思った。

そんなことを思いながら足早に歩いて、進む。あまり見ては悪いと思って、なるべく前を見て歩いていたが、ふと顔を出していた辺りを通り過ぎるとき、何気なくその顔がでてきていたところ、おばさんがいるであろうところを見て唖然とした。

誰もいないのである。それにその場所には、ただ石塀が平らに伸びているだけで、人が隠れられるようなくぼみも隙間もないのである。

ギョッとして立ち止まり、石塀をじっと見つめる僕を夫婦が追い抜いていく。すれ違うとき、僕の方に警戒しているのがわかった。変な顔をしていたんだと思う。

立ち止まったせいで汗が冷えたからか、それともよくわからないこの状況からか、急に寒気がした僕は走って家までの道を急いだ。

それからその道は通らずに遠回りして帰った。

しばらくの間、シャンプーをするときや、曲がり角、何かのくぼみを見つけたとき、またあの顔がひょっこり出てくるのではないかと、怖かった。

池袋からは引っ越した。

 

お題「これって私だけ?」