睦月の顔見せ
また雪が降った。
自宅に帰る頃には、雪が風に乗るほど軽くなって降り注いでいた。自宅のある西東京市では、つい先日の雪がまだしぶとく、道の端にしがみついていた。
コートのフードをかぶり、足早に自宅へと急ぐ。途中セブンイレブンで冷凍食品の担々麺買った。
ついでに肉まんを買って、食べながら帰った。
蒸かしたての、真っ白な肉まんを片手で頬張った。もう片方の手にはコンビニの袋をもっていて、そちらの手ばかりが痛むほど冷たかった。
家に着いて、担々麺を解凍し、勢いよく流し込んで、さて一服と思った時、タバコが切れていることに気づいた。
外は寒いし、雪も降っている。それにタバコ、辞めるはずだったじゃないか。いかんいかん。
いや、しかし今はまだ積もっていないし大丈夫だろう、ストレス溜めるのはいかんいかん。
などと、右往左往した。
スイミングスクールのあとに、海水パンツの結び目が水に濡れ、なかなか解けないときのような、我慢とも焦りともいえない感情で30分ほど悩み、ええいと勢いよく外に飛び出した。
まだ雪は積もっていなかった。
道には雨交じりの雪がガーゼのハンカチ程度溜まっているだけであったが、足元が滑るには充分らしく、途中少し控えめのスリップを決めながら近くのコンビニまでタバコを買いに行った。
無事家の前に着き、タバコを2本吸った。
不思議と空気はそこまで寒く感じなかった。
いつもと変わらず、家の前の道路には、自動車がひっきりなしに行き交っていた。トラックやタクシーが大半で、そのどれもが、まだ降り始めて間もない雪に合わせてスタッドレスタイヤを履いていて、ガチガチと道路を噛み進むような音が行ったり来たりしていた。
家に入り、コートを脱ぎながら玄関に飾ってあるカレンダーをみた。まだカレンダーは1月のままであった。同僚からもらったカレンダーで、毎月様々な日本画と俳句が書かれている代物だ。
1月は、山吹色の振袖を着た、日本髪結った女が、蔵のような建物の間に立って、少しうつむきながら微笑んでいる画が描かれている。
絵は美しいが、少し変であった。その日本画の枠取りが団扇なのである。
カレンダーのデザイン上、その日本画がトリミングされているのだが、線が団扇の縁をなぞったような曲線なのだ。寒々しい気持ちになった。
その季節外れの団扇の横に、俳句が飾られている。
たもとほる
御影蔵町
春着の娘
この寒空に、季節外れの薄着をした娘さんが、ふらふらと街を徘徊していたらどうだろう?少し怖いな。いや、声はかけまい。怖いもんな。
なんて作者の意図とは違うふうに読み取って、独りニヤニヤしながらカレンダーをめくった。
睦月が顔を出した。