まいにちショウアクのすけ

平日の日課として、書いて、書いて、書いて!

移動する図書館の思い出

僕の通った小学校には、毎週木曜日に移動図書館」なるものがきていた。

近くの図書館からたくさんの本を積んだ車がやってくるから「移動図書館」である。

当時の僕は、読書が好きだけれど、自分が本好きだということを、あまり人に知られるのが
嫌だった。

本が好きというと「暗いヤツだ」と思われるのではないかと思っていた。

だから、あまり小学校に設置されている図書館を使っていなかった。

 

しかし、本は読みたい。だから、その「移動図書館」をよく利用した。

そこで貸し借りされる本については、小学校の図書室のように
人目につくカタチで記録が残らないし、生徒が帰った放課後にひっそりと
小学校の校庭にくるそれは、借りている現場を見られる危険が少ないのである。

だから僕は、毎週木曜日、その移動図書館にこそこそと通っていた。色々な本を借りていった。

すべては覚えていないけれど、児童書の「デージェだって一人前」と「モモ」、
あとカートヴォネガッドの「スローターハウス5」を読んだときの
ワクワク感は忘れられない。

 

ヴォネガッドについては今でもたまに著書を手に取り読んだりする。
ワクワクするような描写がたくさんちりばめられていた。

 

中でも素敵だったのは、主人公のビリーが空襲の様子を映したドキュメンタリー映画を
観ている最中に、時をさかのぼる場面だ。

映画が逆再生のようになり、爆弾がどんどんと元あった飛行機の腹に吸い込まれていき、

その飛行機たちが逆向きに飛行場に降り立ち、中から取り出された爆弾が

工場で分解されていくシーンだ。なんと美しい反戦描写なんだと思った。

日本人には、こうゆうシャレの聞いた反戦は描けないんだろうなとなんとなく、

思ったのを覚えている。

 

僕はいつも、その移動図書館で借りた本は、

校庭の一番奥側にあるジャングルジムのてっぺんに上って読んだ。

 

そこは小さな町を一望でき、とても気持ちがよかったからだ。それと
だれかが、校庭に入ってきたときに、すぐ気づくことができるためだった。
…といっても、本を読み始めてしまうと、その本の世界に没頭してしまって、
そんなこと気にはしていなかったのだけれど、保険をかける意味でも、そうしていた。

夏の日のには、町は一面、青々としていてチリチリと耳元で音をが聞こえるようだった。

チリチリと音を立てながら、植物が成長しているような、生命力を感じた。

 

移動図書館には近くの図書館から職員が運転をしてくる。

毎回同じ、くるくるパーマのおばさんだった。

 

これは僕の憶測だが、図書館に勤務していて、大型車両の免許を

持っている人というのは希有な存在なのだと思う。

 

だから毎回おなじこの「くるくるおばさん」が僕に本を渡してくれた。

移動図書館にない本については、要望書を書かせてくれて、

次くるときにはその要望書に書いたタイトルを持ってきてくれていた。

 

印象に残っていることがある。

ある日、移動図書館で本を借り、いつものように本を片手に、ジャングルジムを

上り始めたときだ。

 

 

「おおおおーーーーい!!ちょっとーーーー!!」

 

 

くるくるおばさんが大きな声を出しながら、こちらへ走ってくる。

 

「はぁはぁ…ちょっと…いっつも、そんな片手に本もってジャングルジムなんて上ったら、

 危ないじゃない??だから、これ、おばさんがザック作ってきたから、今度からは、

 このザックに本を入れて、背負ってから上りなさい。ね」

 

「あ、はい…、あ、ありがとうございます」

真っ赤の袋だった。僕はそれを背負ってジャングルジムを上った。

 

今考えると、何も関係のない、我が子でもない僕に、

袋をくれるなんて、優しい人だったんだろうなと思う。

 

その日、本を読んでいても集中ができなかった。

或る気持ちが生まれていたからである。

おばさんのそのささやかな思いやりが、

人と関わるということはすばらしいことなんだなと僕に思わせていた。

 

僕は、こんな風に生きていていいのかと思っていた。
そして、隠していた感情が沸々とわき上がっていた。

 

友達がほしい。

 

明日には忘れてしまうような、くだらない話を

がははと笑い合いながら、話し合える仲間がほしい…

そう思って、僕は本を閉じた。

 

「うぃいいいいいいい〜!!!!!おっしゃーーーーーー!!!!!
飲んだゾーーー今日は寒いなぁ〜!!!!あああああああああ…」

 

酔っぱらっていた、部屋で一人酔っぱらっていた。そして、Tシャツ短パンでベランダに出た。

すごく寒かった。しかし酔っぱらっていて、なぜかそれが笑えてくる。

へへへへへへ〜…とそしてベランダで横になり、空と向き合う。
もう明るくなり始めていた。

 

 

また来年…先がとても長く感じていた。

笑いが、少しずつ、嗚咽に変わる。

僕は、嗚咽しながら、泣いた。

 

また賞を取りのがした。

また来年まで、長く苦しい自分との戦いが、忍耐との戦いが始まる。

いやだ、もういやだ、書くのもいやだし、推敲するのもいやだ。

それに、毎日睡眠時間を削って、また書き続けるなんて、いやだ。

認めてくれたっていいじゃないか。書いたもの、稚拙だとは

わかってはいるけれど、作品としての完成度までとは言わなくとも、

「よく頑張った」くらい、だれか言ってくれたっていいじゃないか。

 

 

そうおもって、津留にFacebookでメッセージを送る。支離滅裂なメッセージを送る。

時間は朝3時。当たり前だが、返信はない。

 

僕はのたうち回りながら次は必ず、穫ってやる。

かならず、見返してやると強く、強く心に誓った。

震える体で、誓い、そのまま、僕は眠りに落ちた。

 

そして、僕は、次の日、風邪を引いた。